大日本茶道学会

令和4年3月:雪解け

東京で育った私にとって、春の訪れを雪解けによって、実感したのは、カナダのケベックで越年した一度だけです。

 しかし、雪解けとともに訪れたにおいは、30年以上たっても、いまだに印象に残っているものです。それは、香しい「匂い」というよりも「臭い」と表記したくなるものでした。それもそのはずで、雪の下から、腐った草が顔を出してくるからです。

ケベックを含むセント・ローレンス川の沿いの街を結ぶ街道は、メープル街道と名づけられるように、紅葉の観光スポットです。ケベックの紅葉の見頃は早く9月下旬です。10月末に雪が降り始めるという極寒の気候では、春の訪れも独特です。

早く冬が訪れるために、草木が十分に枯れるのを待たずに雪が降り始めてしまうのです。そのため、まだ枯れきっていない青みを残した草が雪に埋もれて、4カ月ぐらい放置されます。その結果、雪の下に草が埋もれ、雪で蓋をされたまま春を待っているという状態が生み出されました。

 さて、2年前の緊急時代宣言とともに、われわれの活動も急に雪で蓋をされたような状態になりました。この期間に、腐らせてしまったものはないか、と点検する必要がありそうです。とは言え、後ろを振り向くよりも、春に息づく生命の力を信ずるほうが大切です。

 ケベックの春は、一時は腐った臭いに包まれても、新たな生命の芽吹きが、たちまちあたりを緑の世界に変えていきました。雪の下で腐った草の下には、新たに萌えいずる生命が待機していたのです。

 失ったものを補って余りあるものにするのが春の力だと信じて、春の訪れに胸をときめかせることにいたしましょう。

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